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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)914号 判決 1968年7月31日

原告 西原竹烈

被告 国

訴訟代理人 北谷健一 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、(原告)「被告は原告に対し金一五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年三月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決

二、(被告)主文同旨、の判決。

第二請求原因

一、昭和四三年一月三〇日大阪地方裁判所裁判官加藤孝之は原告訴外河静子、被告、本訴原告間の同庁昭和三八年(ワ)第二三六一号家屋明渡請求事件(以下別件と略称)につき被告敗訴の判決言渡した。

二、大阪弁護士会所属弁護士木村順一に右別件において被告(本訴原告)の訴訟代理人であつたところ、右判決には同訴訟代理人の表示はなく、右判決正本は別件被告本人宛郵便により送達された。

三、およそ民事々件において弁護士が訴訟代理人となつているときは判決にその旨記入し該弁護士に右判決正本を送達するのが相当であり、また法的慣習もそのようになつている。よつて右前記裁判官が、右判決書に被告訴訟代理人木村順一の名を表示しないことは法的慣習上の違法である。

四、これがため右判決正本は昭和四三年二月一日本件原告本人宛送達され、

しかも右送達を受けた時本件原告本人は不在であつたので、一七、八才の未成年者である原告の息子がこれを受領した。この未成年者に対しなされた送達も違法である。

五、そして原告本人が右判決を同月一七日右息子より渡されてこれを見たときは既に控訴期間を経過し、別件判決は確定していた。

六、原告は公務員がその職務を行うについて、故意過失によつてなした前三、四項の違法行為により本件の弁護士着手金五〇、〇〇〇円、慰藉料一、〇〇〇、〇〇〇円相当の損害を蒙つた。

そこで、本訴において損害賠償請求として右弁護士着手金及び慰藉料の内一〇万計一五万円の支払を求める。

第三被告の答弁

請求原因一、二項は認めるがその余は否認。判決書に訴訟代理人記載は法律上の必要的記載要件でなく、その不記載は法律違反といえず違法行為とならない。なお右判決の送達報告書によれば原告本人がその送達をうけている。

第四証拠<省略>

理由

一、請求原因一、二項については当事者間に争いがないので以下同、三、四項の公務員の違法行為の存否につき考える。

二、先ず四項の送達についてみるに、<証拠省略>によれば別件判決正本は原告本人宛送達され、昭和四三年二月一日一四時三〇分原告本人がこれを受領していることが認められ、右認定をくつがえす証拠はない。かりに原告主張の如く当日原告の息子がこれを受領したものとしても<証拠省略>により原告主張の息子が右送達当時原告と同居していたことは明らかであり、その主張年令よりすれば、他に特段の主張もないので、右送達は民訴法一七一条一項のうち事理弁識能力ある同居者に対する補充送達の要件を充たすこと明らかであり何らの違法はない。よつてこの点の原告主張は理由がない。

三、次に、前同三項についてみるに、国家賠償法一条の公務負の行為に違法性がありというのためには、それが不作為であるときは国民に対する法律上(条理、慣習法を含む)の作為義務が存し、これに違反して右不作為がなされることを要する。ところで訴訟代理人の表示は、法文(民訴法一九一条)より明らかな如く判決書の心要的記載事項ではない。

しかし、実務において訴訟代理人の表示をしている例が多いが、これは(1) 訴訟行為が訴訟法上代理資格ある者によつて追行されたことを明らかにし、(2) かつ送達に便にするために出たものにすぎず、右表示を欠いても、(1) の点は訴訟記録上明らかであり、(2) の点についても、もともと訴訟代理人かある場合においても本人に対し判決等訴訟書類を送達することは妨げない(最判昭二五・六・二三民集四巻二四〇頁参照)。又訴訟代理人に判決を送達するにしても、訴訟代理人の存在は前同様送達機関たる書記官において訴訟記録上において容易に判断しうるところであり、判決書に右訴訟代理人の表示の記載を欠くも、また訴訟代理人あるに拘らず当事者本人を受送達書として送達がなされても、本人は訴訟追行権を失うものでなく、これによつて、訴訟代理人により訴訟追行をなす当事者本人の権利、又は法的利益を侵害することにはならない。

右記載か裁判官により実務上の慣行としてなされているとしても、右慣行は前記便宜より生れた事実たる慣習に止り、未だ、法的確信によつて支えられた法規範として、強制力を有する慣習法を形成するものとはいえない。

よつて裁判官は法令上は勿論慣習法上も判決書に訴訟代理人の表示をなすべき義務を何人に対しても負わないという外ない。

そうだとすると別件担当裁判官が別件判決にその被告訴訟代理人の表示をなさなかつた不作為は作為義務違反としての違法行為といいえないので、この点の原告主張も理由がない。

四、以上の次第で、公務員の違法行為を前提とする本訴請求は、爾余の点につき考えるまでもなく、すべて理由かないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 増田幸次郎 杉本昭一 古川正孝)

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